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みみうち、ひらめき、思いつき


by Shuko-3
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望遠郷⑥

【日々是津軽】

         わが家は、表通りから少し奥まった 住宅街にある。
        ひそかに「灯油銀座」と 呼ばれているらしく、この時期、日替わりで
        灯油販売の 軽トラックが やってくるので、灯油調達には 事欠かない。

         今期から 月曜日にやってくる業者の 販売員が、津軽出身の男性になった。
        言葉の 端々からこぼれる 懐かしいイントネーションにつられ、二言三言
        つい言葉を かける。
          
         「いや~、忙しぐなればなまってまるんず」
        屈託なく笑う販売員に こちらも和み、まるで灯油が 津軽から届けられた
        かのように うれしくなる。

        忙しさと なまる度合いは 正比例するのか、いささか疑問ではあるが、
        ともかく灯油は 月曜日に買うことにしている。

        期間限定の ひそかな楽しみ。 来期も 配達してほしいものだ。

                        ◇

         私は 「1000円カット」愛用者である。
        長いこと じっと座っている美容院は 苦手。
        願わくは、安く 短時間で済ませたい。それに 技術が伴えば、言うことない。

        気に入った カット店を探して、ネットサーフィンでも するかのように、
        地元だったり 地方だったり、タイミングが 合った時に 点々と
        1000円カットの 店を 放浪してきた。

         あるとき、わが家の近くに 新しい店ができ、カットがうまいと 
        仲間内で 話題になった。
        さっそく 行ってみる。

        なるほど、これまでになく 大満足だ。
        何度か通ううち、オーナーの男性が 津軽出身だと 知る。
        しかも、あそこの公演、近所の神社・・・と、故郷の 狭い話が 通じるのだ。
        安く 短時間、腕も確かとそろった上、津軽が 付いてくる。

        それから 私は、放浪をやめた。

         そんなことがあると、故郷が平等にくれる 引力を しみじみ感じる。
        無条件に 相手を 応援したくなる。

         長く津軽を離れていると、「もう津軽弁なんて 忘れてしまったでしょう?」と
        言われるが、とんでもない。
        私の頭は 絶えず 津軽弁で思考し、口元にある 標準語変換装置を 通過して、
        言葉が 発せられる。

        この装置のおかげか、スイッチを 入れたり切ったりするように、2カ国語(?)の
        行ったり来たりが 可能だ。 

         その中でも、私に ゆるやかなパワーをくれる 言葉がある。
        「うるがす」、そう、固くなった 鏡餅を おいしく食べるため、水に浸けておく
        場面を 思い出させるこの単語。

        アイデアに 詰まったとき、ふと心に つぶやく。
        放っておくものの、どこか 気に掛けている。
        決して 突き放すわけではなく、上手に 待つ体勢を作ってくれる 
                                    暖かみのある津軽弁。

        もちろん「うるがし」ている間は、アイデアを キャッチする アンテナは
        立てておかなくては ならない。

         ん・・・? 来たかも!
       
        ずっと前の 鏡餅が、「うるげだ」みたいだぞ。
望遠郷⑥_d0008724_00103196.jpg
 「うるがす」をイメージさせる風景
(沖縄県宮古島市の 与那覇前浜ビーチ 2014年8月)
 
               3/3 掲載

(余談:うるがさっているのは 娘)

by Shuko-3 | 2015-03-16 00:09 | 望遠郷